6月12～20日の9日間にわたって、ブラジル・サンパウロでは23歳以下のジュニア世代における4年に一度の戦い「男子U23世界選手権」が開催される。昨年11月の男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップ（AOC）で準優勝に輝いた男子U23日本代表は、アジアオセアニアゾーン2位で出場権を獲得。前回大会の金メダルに続き、2大会連続での表彰台を目指す。この連載では、次代を担う代表メンバーに選ばれた12人をクローズアップ。第3回は、ゲームキャプテンの谷口拓磨と、3ポイントシューターの有吉奏太を紹介する。

昨年U23AOCで主力として本戦出場権獲得に貢献した有吉奏太（左）と谷口拓磨（右）

 谷口拓磨（クラス2.0）
「不撓不屈の精神でメダルをつかみ取る！」

昨年11月に行われたU23AOCに続いて、今大会でもゲームキャプテンを務めるのが、谷口拓磨だ。自身、公式戦デビューとなったU23AOCでは、全7試合をスターティング5として出場。そのうち3試合では40分間フル出場と、チームをけん引。一瞬たりとも手を抜かない姿勢に、中井健豪ヘッドコーチからも全幅の信頼を寄せられた。しかし、谷口自身は「手応えよりも課題の方を感じた大会だった」と語る。

「確かにディフェンス面では、トレーニングしてきたことがしっかりと出せたかなと思います。でも、オフェンス面では簡単なシュートを外したりと、課題だと感じていた部分が出てしまいました」

そこで、帰国後はシューティングの量を増やした。それも単にシュートするのではなく、心拍数を上げて疲れた状態をつくり、さらに動きながらシュートを打つようにしたりと、より実戦に近いシチュエーションで決め切る力を磨いてきた。

谷口に多く訪れるランニングシュートのシーンでは、これまでは右手ではレイアップで打っていたが、左手ではボールを上に持ち上げた状態からシュートを打っていた。しかし、それでは高さのある海外勢には背後から手を伸ばされて上からブロックされてしまう。そこで弱かった左部分の体幹を強化。体のバランスをキープする力をつけつつ、左手でのレイアップシュートを繰り返し練習してきた。

その左でのレイアップシュートを積極的に打つことをテーマに臨んだという4月の強化合宿ではこれまでで最も確率よく決めることができ、積極的な姿勢も含めてコーチ陣からも高く評価されたという。コツをつかむうえで大きかったのは、今年度から男子ハイパフォーマンス強化カテゴリーのアシスタントコーチを務める豊島英氏からのアドバイスだ。

「昨年12月の合宿の時に、豊島さんにレイアップの打ち方を聞いてみたんです。そしたら、豊島さんは左手で打つ時には右手を膝の上に置いていたそうなんです。実際にやってみると、腹筋や体幹だけでなく、右手で膝を押す力で体の軸のブレを防いだり、ボールを持ち上げる強さも出てくることがわかりました。自分に合うシュートの方法を見つけることができたのは、豊島さんのアドバイスのおかげです」

谷口の成長は、プレー面だけにとどまらない。U23AOCではゲームキャプテンとして力不足だったと感じたと言い、だからこそ今大会に向けてはより自覚をもって行動してきた。その一つとして、4月の合宿前には谷口から声をかけ、オンラインでの選手ミーティングを開いた。

「3月の合宿では緊張感が足りなかったり、声が小さかったりと、何度もコーチ陣から指摘を受けてしまいました。このままではまずいなと。4月の合宿は緊張感をもった状態で合宿に入りたかったので、選手同士でコミュニケーションを図ろうとオンラインでミーティングをしました」

その効果は抜群だった。中井HCも「選手たちがしっかりと準備をして来てくれたので、今回の合宿はとてもいい入りができました。世界選手権に向けて、とてもいいチームになってきたと思っています」と手応えを口にした。谷口も同じ気持ちだった。

「自分がコーチ陣と話をしている際も、ほかの選手たちが集まって話し合っているということがよくありました。それを見て“あぁ、自分だけがチームのことを考えているわけじゃないんだよな”と。だから変に気負って自分ひとりでやろうとするのではなく、仲間を頼りながらチームをまとめていけたらと思っています」

U23AOC以上に厳しい試合が続くことが予想される今大会、“不撓不屈”をモットーに戦うという谷口。U23AOCで劇的勝利をおさめたイラン戦のごとく、最後まで諦めることなく、チームみんなで勝利をつかみにいく。

有吉奏太（クラス2.5）

「笑顔で楽しくをモットーに強い日本を見せる！」

ふだんはほとんど緊張しないという有吉奏太だが、初めての公式戦となった昨年のU23AOCは、さすがに「最初は少し緊張しました」と語る。それでも、合宿で磨いてきたことを発揮し、“イラン戦に勝って予選リーグ2位以上で決勝進出”というチーム目標を達成したことには大きな手応えを感じた。一方で、課題もあった。

「海外勢相手にはどうしてもミスマッチの状態ができるので、サイズでは対抗できない部分をどうカバーしていくかは、本戦に向けての課題だと思いました。もう一つは、得点力。シュート成功率が低かったので、その部分をどう上げていくかは重要だと思っています」

有吉自身、代名詞でもある3ポイントシュートはランキングトップの10本を決めたが、アテンプトが57本だったことを踏まえると、納得はいっていない。

「本数だけを見れば、自分としても上出来だったと思います。特にイラン戦という最も大事なゲームで、40％という高確率で4本決めることができたのは良かったなと。ただ、全試合での成功率は17.5％と低かった。タフショットの場面が多いとはいえ、30％台が目標。少なくとも20％台にはのせたいと思っています」

しかし、U23AOC後はケガや体調不良に悩まされ続けてきた。もともと腰に負担がかかるようなブレーキングの仕方をしていたことで、帰国後にはヘルニアを発症。それが治りつつあった今春には、体調を大きく崩し、練習することができなかった。それでも今はほぼ万全の状態だと言い、U23世界選手権では主力の一人として戦い抜く覚悟でいる。

チームには12月のトライアウトをパスして新しく代表入りした4人の選手が加わった。そのため、彼らとどう共通理解を深めていくかが、チームの課題として挙げられ、ギャップをうめる作業は簡単ではなかったという。それでも4人が新加入したことで、昨年のU23AOCの時からラインナップの種類が増え、有吉は「いいチームに仕上がってきている」と手応えを感じている。

「あとは残りの日々で、それぞれがどこまで個の能力を上げて本番を迎えるかが重要」と語っていた有吉自身は、まずは課題である持久力を上げるためにフィジカル強化に注力。そのうえで得意とするシュートにおいては、疲れている状態でも決め切る力を磨いてきた。おかげで、特に持久力においては手応えを感じていると言い、最近では練習中も以前より疲れなくなってきた感覚がある。

さて、有吉は今大会もポイントガードとして、トップからゲームコントロールする役割が主となることが予想されるが、そのなかでハイポインターの得点はもちろん、ローポインター、ミドルポインターも生かしたいと考えている。

「新しく入ってきたクラス1.5の（久我）太一も（足達）飛馬さんも（中村凌とは違う）個性がある。太一はスピードがあるし、飛馬さんはシュート力がある。そうした部分を生かしたいと思っています。また、クラス3.5の3人のラインナップでは、彼らをどれだけのせてあげられるか。それが僕の仕事だと思っています」

そして、こう続けた。「そうした自分の役割をしっかりと果たしたうえで、自分もみんなも楽しく、そして強いバスケをしたいなと。それが個人的な目標です！」

声出し団長も務める有吉。試合前には積極的に声をかけて緊張をほぐし、みんなの笑顔を引き出すつもりだ。そして試合開始早々、相手の度肝を抜く3ポイントシュート炸裂を虎視眈々と狙う。

写真・文／斎藤寿子